
設計レビューの見落としをAIに洗わせる|プロンプトの型
「この設計、レビューに出したけど、自分でも見落としがある気がする」。 ひとりで設計をまとめて、レビューしてくれる先輩は忙しい。あるいはレビュー自体が形だけで、深く突っ込んでもらえない。決めるのは自分、でも抜けがないか不安——そんな夜、ありますよね。
そういうとき、AIは設計レビューの「粗探し役」になります。 ただ、いきなり「この設計をレビューして」とだけ渡すと、当たり障りのない一般論が返ってきて、それで終わりがちです。「エラーハンドリングを検討しましょう」「スケーラビリティに注意」——正しいけれど、自分でも分かっている話ばかり。それでは、時間をかけた割に不安が減りません。
この記事は、AIに「褒めてもらう」のでも「一般論をもらう」のでもなく、自分が見落としている穴を具体的に洗い出させるための、問いの立て方の話です。指摘をそのまま信じるのではなく、確認のきっかけとして使う——その受け止め方まで、一緒に見ていきましょう。
結論:設計レビューでAIに見落としを洗わせるコツは、①レビューの観点を分けて指示する(境界・失敗時・データ整合・運用・拡張など)→ ②「問題がなければ『なし』と答えて」と無理な指摘を防ぐ→ ③出た指摘を重大度で仕分けさせる → ④気になった指摘だけ自分で裏を取る、の順です。AIは「抜けの候補」を挙げる相手であって、合否を決める相手ではありません。最終判断は自分に残します。
設計の見落としは、責められるようなミスではありません。 ひとりで全部の角度から見るのは、そもそも無理があります。だからこそ、別の目で一度ざっと洗ってもらう。その別の目のひとつに、AIを気軽に足せます。
なぜ「レビューして」だけだと物足りないのか

AIに「この設計をレビューして」と丸ごと渡すと、たいてい設計の教科書に載っているような一般論が返ってきます。それが間違いというわけではありません。ただ、次のような物足りなさが残ります。
- 観点が絞られていないので、当たり障りのない指摘が広く浅く並ぶ
- あなたの設計の具体的な箇所を指していないので、確認しようがない
- 「一応それらしいことを言っておく」働きが出て、無理に問題をひねり出すことがある
- 逆に、褒める方向に引っ張られて、肝心の穴をスルーすることもある
設計レビューで本当に怖いのは、細かい指摘の抜けより、「誰も気づかないまま進んでしまう穴」です。エラーが起きたときにどう振る舞うのか、想定外のデータが来たらどうなるのか、運用に乗せた後で誰が困るのか。そういう「言われれば分かるけど、自分では見えていなかった所」を表に出すことが、レビューの目的です。
そのためには、AIに「どの角度から見てほしいか」を指定するのが近道です。虫めがねを1つだけ全体にかざすより、いくつかの角度から順に照らす。それだけで、返ってくる指摘の解像度が変わります。
レビュー観点を分けて洗わせる
まず、AIに見てほしい観点のリストを渡します。全部を一度に見せるより、「この切り口で穴を探して」と頼む方が、具体的な指摘が返ります。設計レビューでよく効く観点を挙げておきます。
| 観点 | AIに探させること | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 境界・入力 | 想定していない値・空・極端な量への備え | 「変な入力が来たら?」 |
| 失敗時 | エラー・タイムアウト・途中失敗時の振る舞い | 「途中でコケたら?」 |
| データ整合 | 重複・欠損・順序・同時更新の扱い | 「ズレたらどう気づく?」 |
| 運用・監視 | ログ・アラート・復旧・誰が対応するか | 「本番で困るのは誰?」 |
| 拡張・変更 | 後から変えにくい所、密結合になる所 | 「半年後に直せる?」 |
| 依存 | 外部サービス・ライブラリが落ちたとき | 「頼り先が止まったら?」 |
全部を毎回使う必要はありません。今回の設計で不安な観点を2〜3個選べば十分です。渡すプロンプトの例:
これから設計の概要を渡します。あなたはレビュアーとして、
次の観点ごとに「見落としや穴の候補」を挙げてください。
- 境界・入力(想定外の値や量)
- 失敗時の振る舞い(エラー・途中失敗)
- 運用・監視(本番で誰が困るか)
各観点について、
・気になる点(具体的にどこが、なぜ気になるか)
・確認すべき問い
の形で書いてください。
問題が見当たらない観点は「特になし」で構いません。
まだ結論や合否は出さなくて大丈夫です。
【設計の概要】
(ここに、作るもの・構成・データの流れ・制約を3〜10行で)
ポイントは3つあります。 ひとつ目は、観点を先に指定すること。これで指摘が具体的な箇所に紐づきます。 ふたつ目は、「特になし」を許す一文。これを入れないと、AIは無理にでも問題をひねり出し、的外れな指摘が混ざりやすくなります。 みっつ目は、「確認すべき問い」の形でも出させること。断定ではなく問いなら、あなたが確かめる余地が残ります。
出てきた指摘を「重大度」で仕分けさせる
観点別に洗うと、指摘が10も20も出てくることがあります。全部に対応していたら日が暮れます。そこで次に、指摘を重大度で仕分けさせて、対応の優先順位を見えるようにします。
さきほど挙げてくれた指摘を、次の3段階に仕分けしてください。
- 高:見落とすと後で大きく困る/直すのが大変になる
- 中:対応した方がよいが、後からでも間に合う
- 低:気づけば直す程度、今回は見送ってもよい
それぞれ、なぜその重大度かの理由も一言添えてください。
こうすると、「まず高だけ見よう」と当たりがつきます。 忙しい日は、高だけ自分で確かめて、中・低はメモに残すだけでも十分前進です。全部を今日つぶす必要はありません。大事なのは、穴の候補が可視化されて、判断の対象になったことです。頭の中だけにあった「なんとなくの不安」が、仕分けされた一覧に変わるだけで、ずいぶん扱いやすくなります。
なお、この一連のやりとりは、チャットで設計メモを貼るだけでも回りますが、Claude Code・Cursor・GitHub Copilot のような CLI/エージェント型の道具を使うと、設計書のファイルや関連する既存コードを読ませたうえで観点別に洗わせられます。実際のコードに沿った指摘になる分、「どこを直すか」が具体的になります。それでも、次に触れるとおり指摘を鵜呑みにしない線引きは変わりません。
AIの指摘を鵜呑みにしない——裏の取り方
ここが、いちばん大事な所です。 AIが挙げる指摘は、「抜けの候補」であって「確定した欠陥」ではありません。もっともらしく書かれていても、次のような外れが混ざります。
- あなたの設計ではすでに対処済みの点を、知らずに指摘してくる
- 前提を渡しきれていないために、的外れな心配をしている
- 一般論としては正しいが、今回の規模では過剰な対応を勧めてくる
- 事実誤認(古い仕様やありもしない制約)を根拠にしている
だから、気になった指摘だけを取り上げて、自分で裏を取ります。 やり方はシンプルです。
- 「これは本当に自分の設計で問題になるか」を、具体的な流れで確かめる(頭の中で1回、その処理をたどってみる)
- 前提の抜けが原因なら、前提を足してもう一度聞く(「〇〇はすでにこうしています。それでも問題は残りますか?」)
- 事実に関わる指摘(仕様・制約・数値)は、必ず一次情報で確認する——ここはAIに任せない部分です
AIに「この指摘、本当に問題?」と聞き返すのも有効です。ただし、AIは指摘を取り下げる方向にも簡単に傾くので、最後の判断は自分で。指摘を消すのも残すのも、理由を自分の言葉で言える状態にしておきます。
もっともらしい誤りの見抜き方はAIのハルシネーション(もっともらしい誤り)の見抜き方に、そもそもAIに任せてよい範囲はAIに任せてはいけない判断・領域の線引きに詳しくまとめています。
明日、まず試すこと
いきなり全観点でやろうとしなくて大丈夫です。今、手元にある設計かレビュー待ちの一件で、次の小さな一歩だけ踏んでみてください。
- 不安な観点を2つだけ選ぶ(迷ったら「失敗時」と「運用・監視」が効きやすい)
- 上のプロンプトに設計概要を3〜10行で貼って、観点別に洗わせる
- 出た指摘を高・中・低に仕分けさせる
- 高の指摘だけ、自分で「本当に問題か」を確かめる
- 確かめた結果(対応する/すでに対処済み/今回は見送り)をメモに一行残す
これだけで、「なんとなく抜けが怖い」が「確認した上で進める」に変わります。
見落とし洗い出しチェックリスト
AIにレビューさせる前と、指摘を受け取った後で、さっと確認します。全部に○が要るわけではなく、関係する所だけで十分です。時間がない日は、太字の2つ——「観点を指定した」「事実の指摘は自分で裏を取った」——だけ押さえれば及第。残りは余裕があるときの確認項目です。
洗わせる前
- 見てほしい観点を指定したか(丸ごと「レビューして」で済ませていないか)
- 「問題がなければ特になし」と、無理な指摘を防ぐ一文を入れたか
- 設計の前提(作るもの・制約・規模)を渡したか
指摘を受け取った後
- 指摘を重大度で仕分けし、まず「高」から見たか
- 気になる指摘を、具体的な処理の流れで確かめたか
- 前提の抜けが原因の的外れを、前提を足して見直したか
- 仕様・制約・数値の指摘を、一次情報で確認したか
- 残す/消す指摘の理由を、自分の言葉で言えるか
最後に
設計をひとりで見きるのは、心細いものです。 レビューが回ってこない、突っ込んでくれる人がいない、抜けがあっても気づけない。その状況は、すぐには変わらないかもしれません。
でも、合否をもらうためでなく、もう一つの目で穴の候補を洗うためにAIを使えば、ひとりで抱えていた設計に、確認のきっかけが増えます。見落としを責められる前に、自分で拾い直せる。それは、レビュー待ちの不安を少し軽くしてくれます。

全観点でなくても、今日ひとつ「失敗時はどうなる?」とAIに洗わせられたなら、それはもう、見落としの不安を確認できるものに変える一歩です。 洗い出す前に設計の方向を固めたいときはAIを設計の壁打ち相手にする問いの立て方を、コードを書いた後の確認はAI生成コードのレビュー・検証チェックリストを合わせてどうぞ。壁打ちで決める・観点で洗う・書いた後に見る。この流れがそろうと、AIとの設計はずいぶん落ち着きます。